「物理入門コース9相対性理論」

中野董夫著、岩波書店、2400円

 今回は表記の本のほかにもう一冊「初等相対性理論ージュニアからシニアまで」高橋康著、講談社サイエンティフィク、2500円もあわせて読んだ。どちらも主として、アインシュタインの特殊相対論の入門的教科書であり、一般相対論のことはあまりふれられていない。理工系大学の初年級の学生を対象にした教科書である。両書ともとくに新しい出版ということではないが、新学期にはたくさんの教科書が並べられるので、そのふたつの例としてとりあげた。いずれも基本的なことをきちんと述べた良書である。

 「相対性理論」の著者の中野さんは、大阪市大名誉教授で現大阪市立科学館の館長である。日本では故内山龍雄阪大教授と並んで著名な素粒子論系の相対論学者である。高橋さんも素粒子論系の物理学者でカナダのアルベルタ大学教授である。分かりやすい物理の教科書をこの他にもたくさん書かれている。中野さんの本は非常に標準的といえよう。完全に初心者向けである。とはいえ式を用いない啓蒙書のスタイルではなく、教科書であるので多少の式はある。

 それにたいして高橋さんの本は、とてもユニークで(簡単な)式を駆使して、高校生にも(原理的には)分かる本だ(と著者は主張する)。ともかく物理的なセンスがキラリと光る本で、物理を分かっている人には、納得の行く本であろう。

 先日、これらの本を買いに梅田の紀伊国屋に行って驚いたのだが、相対論関係の本が山のようにある。漫画を駆使したもの、質問形式のもの、非常に難解なものなど。私はたまたま前記の二冊を買ったのだが、その他に良書がないはずもない。しかしなかには素人の書いた、箸にも棒にもかからない本も目についた。相対論は間違っているとか、ホーキングの宇宙論やビッグバン宇宙論は間違っているといったたぐいのものだ。これらの本は疑似科学といわれるもので、ムー大陸の本などと同列にならべるべきもので、書店の陳列のセンスが問われる。初心者がこういった完全に誤った本でも、立派な書籍の体裁をしてい ると本当なのかなと誤解をする。一番問題なのは、ある程度名の通った出版社が、こんな本を出版することであろう。昨年9月2日の朝日新聞で池内了阪大教授が、こういった現象を憂うる記事を書いておられた。表題がセンセーショナルで、売れれば内容は嘘でもなんでも良いとする出版社の態度は問題だというのだ。聞くところによると、その本の編集者は池内教授の記事がかえって宣伝になると喜んでいるそうだ。出版人の堕落である。そういえばテレビでも超能力番組とかUFO番組とか、その手のやらせ番組が多いなあ。

 科学理論には確立したもの、ほぼ確立したが、疑問点もあるもの、単なる仮説とさまざまな段階がある。ニュートン力学や古典電磁気学、量子力学、特殊相対論は完全に確立した理論である。とくに前3者は、これなくては現代科学文明が成立しないほど、技術に組み込まれている。特殊相対論は加速器の設計には不可欠だが、日常生活にはあまり関係ない。しかしこれなくしては、素粒子論、高エネルギー物理は全滅する。特殊相対論を疑うまともな研究者はいない。いっぽう一般相対論は99%正しい程度か。ビッグバン理論になると90%程度か。ホーキングの宇宙論なんかは完全に仮説の段階で、ウソとも本当とも決められない。


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