その1作目は新潮学芸賞を受けたという。私がこの第2作をえらんだのは、それが古代地中海世界に栄えたカルタゴという通商国家の滅亡(紀元前146年)をあつかっており、カルタゴとローマの関係は、日本と米国の関係に似ていなくもないからである。もう何十年も前になるが「カルタゴ」という映画を見た。ローマとカルタゴのガレー軍艦が衝突しながら、そのオールとオールがボキボキと異様な音をたてて折れるシーン、カルタゴ最後の日に、ローマ兵がなだれを打って乱入するなか、カルタゴの街が炎上するシーンが私の記憶に焼きついている。塩野さんの本によれば、それは第3次ポエニ戦役(紀元前149−146年)のことだそうだ。
第1次ポエニ戦役(紀元前264−241年)は、シチリア(シシリー)島の領有を両者が争ったことにより発生した。そこに出てくるシチリアの町の名前は、私にとってなつかしいものが多い。以前シチリア島の西部のトラパニの郊外の山の上にあるエリチェという町で、相対論の学校が開かれ、私は2度ばかり参加した。そのときの遠足で、セジェスタとセリヌンテの遺跡を訪問した。どちらも見事なギリシャ式神殿、劇場、街路などがあり、ここが当時ギリシャの植民都市であったことをものがたっている。セリヌンテの街の廃墟から海を眺めて、感慨にふけってしまった。もっとも塩野さんの本を読むまでは、このあたりの歴史には殆ど無知であったが。エリチェもすばらしく魅力的な中世の街である。シチリアというとマフィアしか思い浮かばない日本人にとっては、すばらしい驚きであった。
さて本書の主題は第2次ポエニ戦役(紀元前218−201年)の主人公であるカルタゴの軍事天才ハンニバルと、ローマの将軍スキピオの死闘である。高校で習ったことは、ハンニバルが象と数万の軍隊を伴ってアルプスを越えたこと、イタリアのカンネーの会戦でハンニバルが徹底的にローマを破ったこと、しかし結局はローマの持久力が勝ち、アフリカのザマの会戦でハンニバルが敗北したことなどである。実際は18年にもおよぶ長期戦であった。その詳細がこの385ページの大部な本に述べられている。この戦いの後、ローマが帝国主義的覇権国家になっていくさまは米国に似ているようで、なおさらこの話から教訓を引き出したくなる。