書評『検証・サイババの「奇跡」』、ディル・バイヤーステイン編、安斉育郎監訳、かもがわ出版
松田卓也
本書はかもがわ出版の講座「超常現象を科学する」シリーズの一冊である。編者はバンクーバー・コミュニティ・カレッジの哲学科教授で、発行元はインドのサイコップである。インド・サイコップはジャパン・スケプティクスと似た、疑似科学、超常現象を批判的に研究しているグループである。
サイババの名前はもうみなさんよくご存じであろう。もじゃもじゃの髪の毛をしたインドの「聖者」であり、テレビにもよく登場している。サイババに引きつけられた日本の著名人として、桐島洋子さんとか林葉直子さんが上げられる。サイババは宗教者としては「愛」を説くのであるが、彼が日本で有名なのは、空中から灰を取り出す「奇跡」によってである。
サイババとその信奉者は次のような主張をしている。1)サイババは全知全能である。2)サイババは二人の人間を蘇生した。3)サイババはそのテレパシーによって信者のすべてを完全に知っている。4)サイババは数え切れないほど多くの小物体を物質化した。5)サイババはありとあらゆる奇跡を行った。6)サイババは信者が危機にさらされているとき、超常的治療や「遠隔地からの救済」を幾度となく施した。7)サイババの姿は古代の予言を体現している。
本書はこれらの主張を徹底的に検証して、それらがいずれも嘘であるか、手品であるか、証拠がないかを示している。たとえばサイババが全知全能という主張に対しては、彼の英語があまりにブロークンであり、通訳を必要とすることによって反論している。人間の蘇生に関しては、信者の主張は曖昧であり、証拠がなく、関係した医者は、はっきり否定していることを述べている。
テレパシーに関しては、次の話がおもしろい。アメリカにあるアメリカン・サイ組織の責任者が、サイババに活動報告する必要性について疑問を呈した。もしサイババが何でも知っているなら、そんな報告など必要ないはずだからだ。それにたいするサイババの答えはこうだ。自分は何でも知っているが、信者が報告を書くことが、当人のためになるという。都合の良い言い訳である。
小物体の物質化に関しては、これはもう完全な手品である。そのことは専門の手品師たちが、サイババが奇跡を行うビデオを観察することによって看破している。日本でも有名な、壺から灰を取り出す奇跡については、灰を固めたものを壺の内部に塗りつけておき、それを指で掻き出すのだと、詳細なテクニックまで紹介している。
ガソリンがなくなった自動車に、サイババが水を入れさせたら動いたという。これはイエスの母がワインが無くなったと告げたとき、イエスは壺に水を満たさせたら、それがワインになったという話に似ている。話は変わるが、評者はミスター・ビーンを演ずるローワン・アトキンソンのファンである。彼のアメリカでのライブショーのビデオがあるが、これがとてつもなくおもしろい。(多少、下品であるが。)その第三話は、「ナザレの奇跡」と題したもので、まさにその話である。水がワインに変わったときに、召使いはその理由が分かっていた。なぜなら台所でワインが無くなったと、大騒ぎをしていたからだ。つまりイエスは手品師であるという、キリスト教徒に対しては強烈なジョークなのである。サイババもアトキンソンにかかれば、形無しであろう。