書評「立花隆秘書日記」、佐々木千賀子、ポプラ社、2003年3月、1500円、ISBN4-591-07659-8

本書は1993年から1998年まで、立花隆の秘書を勤めた著者から見た、立花隆の実像である。著者は、SF作家の小松左京の秘書も務めた人で、立花氏の秘書になったときから、首になるまでの顛末が述べられている。その間、田中角栄死去、阪神大震災、オウム真理教事件、立花東大教授誕生などの激動の時代が語られる。

本書は超常現象とか疑似科学の本ではないが、評者が本書を選んだ理由は、1)なんどかこの欄などで立花隆の著書を取り上げたこと、2)立花隆は臨死体験の本を書くなど、オカルト的な問題にも関心が深いこと、3)立花隆に会ったことが二度あり、一度は長時間、話し合ったので、個人的興味があること、などである。

 まず著者が500倍の難関を突破して秘書に選ばれた顛末が述べられている。書類審査で、あまり美人の人は省かれたとか、ペーパーテスト、面接試験、実技試験などについて述べられている。実技試験では電話での面接依頼を上手に断る技術などが試された。

 最後の部分で、彼女が首になった顛末が語られる。実に意外なのだが、立花隆はあまり金持ちではなく、かなり自転車操業的なのである。そして最後には、ついに月給20万円の秘書すら首を切らざるを得なくなる。彼がある週刊誌のインタビューで、出版社の原稿料の安さをのろったのだが、そのついでに言った「秘書にも給料渡さなくっちゃならないし」という言葉に、著者はカチンとくる。そしてしばらくして、首を言い渡された。その後、著者はスタジオジブリで宮崎駿監督の下で働くことになるのだが、あとがきでは著者は立花隆に対しては非常にクールになっている。ところで立花隆は宮崎アニメの「耳をすませば」に父親役の声優として出演している。

 立花事務所は通称ネコビルと呼ばれる地上3階地下2階のペンシルビルである。立花隆は猫が好きなのでビルの壁面にネコの絵が描いてあり、それでこう呼ばれているのだそうだ。ビルのなかは資料で埋め尽くされている。立花隆の執筆スタイルは徹底的に資料を集めて読み込み、その中のいくらかを使って原稿を書いていく。その後、資料を捨てることがないので、事務所は資料であふれかえっていく。ついに空間が無くなり、吹き抜けをつぶして部屋を増築する。その部屋にはトイレを通ってしかいけないという変な部屋である。さらにそれでも足りなくなり、屋上に小屋を建てたりする。

 評者が非常に共感を覚えたことは、立花隆は締め切りが来ても執筆に取りかからないこと、どうしようもなくなると部屋の模様替えをして現実逃避を計ること、しかしいったん執筆を開始すると一気呵成に書いてしまうという話である。評者と同じである。

立花隆は昨今、物忘れがひどく、秘書に向かって「あれさー、あれして、あれしてくれる?」と言ったり、一階から3階の部屋に行って、そこでなにしに来たか分からなくなるという。立花隆はコンピュータの意義を説くのだが、自身ではキーボードアレルギーだとか、インターネットに凝って探索したのは主としてHサイトであるとかという逸話は実に楽しい。「知の巨人」だってこれなんだ。本書は我々に勇気を与えてくれる本である。