4次元時空の旅

1.特殊相対論と4次元時空

1.1 ニュートン力学と特殊相対論

 4次元空間といったときに、真先に連想するのはアインシュタインの相対性理論であろう。本稿では相対性理論を短く相対論とよぶことにする。相対論は4次元空間を扱うとか、4次元目は実は時間のことであるといった話を聞いた人も多いであろう。相対論は特殊相対論と一般相対論に分けられる。重力が存在しない場合で、非常に高速な物体の運動を扱うものが特殊相対論である。まず特殊相対論とはなにかを解説し、つぎに4次元のミンコフスキー時空について説明しよう。一般相対論は重力の理論であるがこれは後述する。

アインシュタインが特殊相対論を提唱したのは1905年のことである。それ以前に物理学を支配していた理論は、ガリレイに始まりニュートンによって基礎を築かれたニュートン力学である。ニユートンの有名な3つの運動法則がある。1)力を加えない物体は等速直線運動をする、2)力は質量と加速度を掛けたものである(ニュートンの運動方程式)3)作用と反作用は大きさが等しく、方向が反対である。

ニュートンの運動法則は、厳密には慣性系でのみ成立する。慣性系とは重力が働かない空間で、かつ加速度系でない空間である。加速度系でないとは遠心力のような、みかけの力が働かない座標系である。慣性系の例としては、たとえば星の重力の及ばない遠くの宇宙空間とか、あるいはスペースシャトルの内部のような無重力の空間がある。しかし重力の働く地上も、水平方向の運動に限れば、近似的には慣性系とみなしてもよい。

ニュートン力学においては、相対性原理が重要な役割をはたす。相対性原理とは、ある物理法則がある慣性系で成立する場合、それに対して等速直線運動している座標系でも同じ法則が成立する、ということである。ある慣性系に対して等速直線運動をしている座標系も慣性系である。つまり相対性原理とは、物理法則はどんな慣性系でも同じ形で記述されるということである。

相対性原理をニュートン力学の範囲内で考えたものをガリレイの相対性原理という。つまりニュートンの運動方程式は、どんな慣性系でも同じ形をとる。従って、生じる現象も同じである。たとえば地上で石をポトリと落とすと足元に落下するが、この実験を走っている列車内で行っても、やはり足元に落下するのは、相対性原理の例である。また慣性系から別の慣性系への変換をガリレイ変換とよぶ。

やがて光の速さは有限であることが分かってきて、測定されるようになった。秒速30万キロメートルである。もし光を秒速20万キロメートルのロケットで追いかけたら、光の速さは秒速10万キロメートルになるのであろうか。あるいは秒速40万キロメートルのロケットで追いかけたら、光を追い越すのであろうか。(ニュートン力学の)常識ではそうなる。もしそうであれば、光の伝播という現象に関しては、相対性原理は成立しないことになる。音速の場合は確かにそのようになる。超音速のジェット機に乗れば、音を追い越すことが可能である。

光の場合はどうであろうか。もちろん秒速20万キロメートルのロケットなど、現代の技術で造ることはできない。しかし、地球の自転の速さは秒速460メートルであるし、地球の公転速度は秒速30キロメートルもある。これらを利用すると、光の速さが東西と南北で僅かに違うとか、季節によって違うということがあるかもしれない。実際、その違いを測ろうとしたのが、有名なマイケルソンとモーレーの実験である。結果は否定的であり、光の速さはどのように測っても、一定であることが明らかになった。これを単なる実験事実であるだけでなく自然界を支配する主要な原理と考えたのがアインシュタインであり、これを光速度一定の原理とよぶ。

つまり光の速さに関しても、相対性原理が成り立つのである。ところがニュートン力学では先に述べたように、光の速さは一定にはならない。そこでニュートン力学を変更する必要がでてきた。これがアインシュタインの特殊相対論である。光の速さまで含めて、物理法則が慣性系から別の慣性系への変換に関して、形を変えない。これをアインシュタインの(特殊)相対性原理とよぶ。またその変換をローレンツ変換とよぶ。

1.2 特殊相対論とローレンツ変換

すこし数式を使って議論しよう。x,y,zのデカルト座標系を考える。今、時刻t=0に座標系の原点から光が放出されたとする。時間t後には、光は原点を中心とする半径

r=ctの球面に達しているであろう。その球面の方程式は

x2+y2+z2=(ct)2

である。簡単の為に、今後はz=0の面内のみを考えると、上の式は

x2+y2=(ct)2

という円の方程式になる。

ところでいま、x軸の正の方向に速さvで走っている観測者を考える。その観測者の座標系をX,Y,時間をTとする。X軸はx軸と一致、y軸とY軸、z軸とZ軸は平行とする。(図参照)

また観測者の時間T=0に両者の原点は一致したとする。光速度一定の原理から、走っている観測者にとっても光速は一定値cであるから、その観測者から見た光はやはり自分を中心とした半径cTの球面上にある。つまり光の球面の方程式は

X2+Y2=(cT)2

となる。(x,y,t)と(X,Y,T)を関係付ける式がローレンツ変換で次のような式になる。

X=γ(x-vt)

T=γ(t-xv/c2)

ここでγは

γ=1/(1-(v/c)2)1/2

ローレンツ変換の式を先の光の球面の方程式に代入してみると分かるように、光の球面の式を変えない。ところでローレンツ変換は常識的には、おかしな式である。ニュートンの運動方程式にこの式を代入すると、方程式の形が変わってしまう。つまりガリレイの相対性原理を満たさない。ガリレイの相対性原理を満たす式は次のような変換である。

X=x-vt

T=t

この式はローレンツ変換の式に於いて、速度vが光速cに比べて十分小さいと仮定して、分母を無視した場合の式になっている。つまり、ニュートン力学とは、特殊相対論において、速度が光速に比べて十分小さい場合の近似であったのだ。

まとめるとこういうことになる。ニュートンの運動方程式は慣性系の間の変換(ガリレイ変換)で不変になるが、光の速さとか光の伝播の式は不変にはならない。光は電磁現象であるから、マクスウエルの方程式で記述される。つまりマクスウエルの方程式はガリレイ変換で不変にならない。ところがマイケルソン・モーレーの実験では、光の速さはどの慣性系からみても一定であった。つまりマクスウエルの方程式は、慣性系の間の変換で不変になるべきである。そのためにローレンツ変換を導入すると、これはマクスウエルの方程式を不変にする。しかしニュートンの運動方程式は不変にならない。どちらをとるべきか。マイケルソン・モーレーの実験は厳然たる実験事実である。ニュートンの運動方程式ももちろん実験事実ではあるが、光速度にちかい現象で正しいという保証はない。そこでニュートンの運動方程式を死守するかわりに、マクスウエルの方程式とマイケルソン・モーレーの実験を優先する。すると慣性系の間の変換はローレンツ変換となる。力学的現象に対しても相対性原理を成立させるために、ニュートンの方程式を書き直そう。それがアインシュタインの特殊相対論である。

 1.3 特殊相対論とミンコフスキー時空

以上で簡単に特殊相対論の説明を行ったが、ここでは図的、幾何学的に説明しよう。紙面に描く都合上、さらに1次元落としてz=Z=0,y=Y=0の面内で物事を考えよう。すると光の球面の方程式はそれぞれ

x2-(ct)2=0

X2-(cT)2=0

となる。あるいは因数分解すると

(x-ct)(x+ct)=0

(X-cT)(X+cT)=0

となる。(x,t)座標で光の軌跡を描くと、傾き+−1/cの2本の直線になる。簡単の為にctを縦座標とすると、光の軌跡は傾きが+−1の直線になる。あるいはy軸を復活させれば、光の軌跡は頂角が90度の円錐となり、これを光円錐という。このような図を時空図とよぶ(図参照)。

アインシュタインは特殊相対論を作り上げたが、彼は数学があまり得意ではなかった。幾何学を用いて特殊相対論のきれいな意味付けを行ったのは、数学者のミンコフスキーであった。そこでこの空間をミンコフスキー時空とよぶ。ミンコフスキー時空は、空間と時間を合わせて4次元の空間である。

さてこの(x,ct)座標の時空図の上に(X,cT)の座標軸を描くとどうなるか。X座標の原点はx座標に対して速度vで走っているから、原点のx座標は

x=vt=(v/c)(ct)

となる。つまり図に示した傾きc/vの直線がそれであり、その直線はまたcT軸となる。X軸はどうなるだろうか。(X,cT)座標系でも光の速さが(x,ct)座標系と同じであるためには、X軸は図に示したようにならなければならない。

光の道筋はどちらからみても同じ、勾配が+−1の直線である。

1.4 ミンコフスキー時空の距離の定義

ユークリッド幾何学の成り立つ空間では、ピタゴラスの定理が成立する。原点と点(x ,y)の距離をrとすると

r2=x2+y2

である。

座標系(x,y)と原点を一致させて、回転させた別の座標系を(X,Y)とする。(x,y)と(X,Y)を同じ点とすると、原点とその点の間の距離は、どちらの座標系で見ても等しい。つまり

x2+y2=X2+Y2

ところがミンコフスキー空間の、原点と点(x,ct)の距離sは

s2=x2-(ct)2

となる。このように定義された距離はローレンツ変換に対して不変である。つまり

s2=x2-(ct)2=X2-(cT)2

この距離は、はなはだ奇妙な性質を持っていることが分かる。原点からの距離が0である点は、ユークリッドの幾何学のように原点自身だけではなく、

s2=x2-(ct)2=0

つまり

x-ct=0, x+ct=0

の二本の直線上すべての点である。つまり現在から光が到達する点への距離は0なのである。

また距離が虚数になる領域、つまり$s^2<0$も存在する。そのような領域は原点と時間的につながりのある領域で、図に示すように「過去」と「未来」に分かれる。現在と「過去」ないしは「未来」の一点を結ぶような直線は時間的であるといわれる。このように時空図の上に書い線を世界線とよぶ。

一方sが実数の領域にある点には、光より速いものでないと到達できない。相対論では光より速いものは存在しないので、この領域は現在からは到達できない。この領域を人によっては「間在圏」とかよばれている。現在と「間在圏」にある一点を結ぶ直線は空間的であるといわれる。図にそれらの関係を示す。

ミンコフスキー空間とユークリッド空間の大きな違いは、距離の定義の違いからもわかるであろう。たとえば、図に示すような三角形ABCを考える。三辺のどの直線も時間的であるとする。つまりその世界線に沿って旅行することができる。さてA点からC点へ直線の世界線に沿っていく距離と、AからBを経由していく距離の和を比較すると、ABCと行く方が距離が短いのである。ユークリッド幾何学ではAC>AB+BCであるが、ミンコフスキー空間の幾何学ではAC<AB+BCとなる。そのことはABとBCが光の世界線である場合、それぞれの距離が0であるから、さきの不等式の右辺は0になるのである。

2.統一場理論と高次元時空

2.1 カルツァ・クラインの5次元理論

ここまでの話しはアインシュタインの提唱した特殊相対論についてであった。アイン シュタインは、特殊相対論の発表(1905年)の後、その一般化に取り組む。特殊相 対論では慣性系の間の変換(ローレンツ変換)に対して、運動方程式と電磁気方程式が 不変になるべしという、アインシュタインの(特殊)相対性原理のもとにくみたてられ ていた。

ローレンツ変換は慣性系に対して等速直線運動をしている座標系同志の変換であり、加速度運動をしていたり、曲線運動をしている場合にはなりたたない。アインシュタインはこのような場合をも含むように、理論を拡張した。それが一般相対論である。一般相対論では重力が取り扱われる。その場合、空間はもはやミンコフスキー空間のように、3次元のユークリッド空間に時間座標を付加したような簡単なものではなく、曲がったリーマン空間となる。彼によれば、重力とは「力」ではなく、空間の曲がりのあらわれであるという。

しかし本稿ではその話しはさておいて、特殊相対論の別の方向への拡張、統一場理論について述べる。アインシュタインは一般相対論によって、重力を幾何学化することに成功した。しかし、重力以外に本質的な力であると考えられる電磁気「力」は、空間の幾何学に組み込むことができなかった。アインシュタインはその後、死ぬまで電磁気力をも幾何学的に統一した理論、つまり「統一場」理論を求めてさまよった。

ポーランドの若き研究者カルツァがそのアイデアの一つを提案した。それは時空を5次元に拡張して、その余分な自由度を電磁気力にあてようというのである。カルツァの理論はその後、クラインによって一般化されたので、現在ではこの理論をカルツァ・クラインの理論とよんでいる。ただ5次元といっても、我々の観測する現実の空間は3次元であり、時間を加えても4次元時空であることに変わりはない。それでは5次元目はどこにあるのか。カルツァは、4次元時空の一点一点に、極めて小さな「もう1次元」がくっついていると考えたのである。その1次元は大きな広がりはもたず、われわれの通常の観測にはかからないミクロなものであるとする。有限の1次元空間といえば、針金の輪のようなものを考えれば良い。つまり空間の各点に小さな輪がくっついていると想像したらよいであろう。

2.2 カルツァ・クラインの11次元理論

物理学のその後の進展はアインシュタインを置き去りにした。相対論とならんで20世紀の革命的な物理理論として量子論がある。それは特殊相対論と結合してディラックの電子論へと発展し、相対論的場の理論へと発展していった。現在の素粒子論の基礎である。しかし相対論的場の理論では特殊相対論が重要であり、一般相対論は最近まで多くの物理学者には忘れられた存在であった。だから一般相対論のさらなる拡張としての、カルツァ・クラインの理論を含む様々な統一場理論もわすれさられていたのである。相対論は量子論的でないという意味において古典論であり、大多数の物理学者の興味をひかなかったのだ。というのは電磁気力を理解するには、量子論的場の理論をもちいなければならず、古典的に重力と電磁気力だけを統一しても意味がないと考えられていたのである。実際、世界を支配する力は重力と電磁気力だけではなく、「強い力」と「弱い力」が素粒子レベルで重要になることが分かり、2つの力だけを統一しても、それは真の「統一理論」にはなり得ないからである。

しかし1970年代になって、ワインバーグとサラムが弱い力と電磁気力を一つの「電弱理論」のもとに統一するにおよんで、再び統一場理論が脚光を浴びるようなった。その後、強い力も統一しようとする「大統一理論」があらわれ、アインシュタインの夢は再びよみがえった。重力をも統一しようという気運である。「超重力理論」、「超弦理論」などさまざまあるが、「11次元のカルツァ・クライン理論」もそのような試みの一つであった。この理論においては、3次元の空間(外部空間)と1次元の時間、それに7次元の内部空間がある。7次元の内部空間は考えにくいので、2次元の内部空間を考える。閉じた2次元空間の例としては球面がある。この球面の半径は極めて小さく(例えば$10 ^{- 33}cm$)の程度)とする。空間の各点にこんな小さな球面がくっついていると想像すればよい。そんな内部空間の内部の振動が素粒子をあらわしていると考えるのである。もっとも「11次元のカルツァ・クライン」理論は、その後あまり聞かないようである。

3.空間はなぜ3次元か

特殊相対性理論は4次元時空を考えるといっても、4次元目は時間であり、いわゆる4次元ユークリッド空間とは大きく性質が異なることはすでに述べた。つまり距離を定義する式の符号が、空間と時間では異なるからである。カルツァ・クライン理論では、内部空間の距離の符号は、通常の外部空間と同じである。しかし、その空間は閉じている上に極めて小さい。われわれが常識的に考える空間とは、大きく異なっている。つまり、いずれにせよ、われわれのすんでいる「空間」は、あくまでも3次元なのである。

宮崎先生は4次元空間がお好きなようだが、しかしそれはあくまでも仮想のものであ る。それではどうして、我々のすむこの世界は3次元空間なのであろうか。これについ て極めて興味深い考察がなされてきた。




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