タイムマシン・・・時間観の大変革が起きる


「タイムマシンは21世紀に完成するか」と問われたら、「完成しない」と答えるのがもっとも穏当な解答であろう。しかし、そういってしまっては身も蓋もないので、少し真剣に考えよう。最近ロシアの科学者がタイムマシンを完成させたという新聞記事があった。それによると、彼は作ったタイムマシンに電子時計を数個入れ、タイムマシンのスイッチを入れてしばらくして取り出したら、外においたものよりも時間が進んでいたという。それに対するもっとも穏当な解釈は、その記事への某大学教授のコメントにもあるように、マシンの電気装置が時計に影響を及ぼしたのであろう。

ではタイムマシンが全くナンセンスかと言えばそうでもない。米国の著名な相対論学者キップ・ソーンが80年代にタイムマシンの作り方の論文を出版して話題になった。ブラックホールとホワイトホールが連結したワームホールをまず作る。一つの口を非常な高速度で宇宙旅行させて、元に戻す。すると相対論的なウラシマ効果により、宇宙旅行してきたホールでは、地球においたものに比べて時間が余り経過していない。そこで時間のたったホールに飛び込み、若い方のホールから飛び出すと、タイムマシンになるというのである。この説にはホーキングが時間順序保護仮説を唱え反対した。そのようなワームホールは必然的に爆発してしまうというのだ。たとえソーンが正しいとしても、ワームホールの存在すら確認されていないし、いわんやそれを作ったり、超高速で宇宙旅行させたり、その中を通過したりすることが簡単にできるはずはない。

タイムマシンというと、「バック・トゥー・ザ・フューチャー」のように、人間が過去に戻ることばかりに注目がいく。しかし、人間がいかなくても、情報だけを過去へ送り込めば、一種のタイムマシンになるのだ。それができると、未来の株価や競馬予想の情報が手にはいることになる。するといながらにして大儲けができる。情報を過去へ送る一つの手段は、情報を光速度より速く伝達させることである。通常は、これは特殊相対論の要請によりできないことになっている。

ところが最近、情報を光速よりも速く送るという実験をしたと主張する科学者が現れて話題になっている。それはドイツのギュンター・ニムツ博士だ。彼はマイクロ波を、障害物を通して伝送した。マイクロ波は障害物は通過しないはずだが、量子論的トンネル効果で、いくらかは通過するのである。このように通過したマイクロ波の光子の速度は光速の1.7倍とか4倍という値が出ている。この問題に関しては、他の実験グループも現象自身は確認している。問題は、単に光子だけではなく、情報を超光速で送れるかという点にある。アメリカの学者は反対しており、決着が付いていない。たとえ、情報が超光速で伝わったとしても、障壁の厚さは大きくできず、たとえば十億分の一秒前に情報が送れるといった程度であろう。実用的には、ほとんど問題にならない。しかし物理学的には実に重要な問題であり、21世紀の早い時期にはこの問題の決着が付くと思う。

私自身は、これらのタイムマシンより、もっと根元的なことを考えている。そもそも時間とはなんだろうか。現在、過去、未来の存在は、われわれの意識や経験では全く明らかなものである。しかし、物理学的には全く明らかでない。そもそも現在という概念は、物理学には存在しない。私は「時間とは人間の脳が生み出した幻影」ではないかとさえ思っている。ウオシャウスキー監督の映画「マトリックス」では、この現実世界がコンピュータの作り出す仮想現実であった。そこでは当然、時間などいかようにでも操作できるのである。仮想現実の話はともかくとして、「時間」とは、古来の人々が考えてきたような、確固とした物理的存在ではないのではないかと、私は疑っている。21世紀には時間観の大変革が起きると予想している。

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