降着円盤の形成のコンピュータ・シミュレーション。左の巨星から流れてたガスは右にあるブラックホールないしは中性子星のまわりにアクリーション円盤を形成する。そのとき渦状の衝撃波が発生することかわれわれの研究から分かった( 松田、関野、沢田による) 。
アインシュタインが一般相対論を提案したつぎの年にドイツの物理学者カール・シュバルツシルトは質点まわりの重力場を計算した。一般相対論では時間と空間を合わせて時空とよび、物質の存在は時空の構造を規定する。時空は物質の存在のため曲がり、その曲がりが重力として働くとされている。つまりシュバルツシルトの解は質点まわりの時空の構造を決めているのである。シュバルツシルトの時空から決まる重力は、遠方ではニュートンの重力理論によるものと一致するが、質点の近傍にとても奇妙な球面が存在することが分かった。そこでは時空を記述する物理量( 計量とよぶ) が無限大になるように見えるのである。この球面の半径をシュバルツシルト半径または重力半径とよび、ラプラスたちの求めた値と一致する。つまりシュバルツシルト半径のところではなにか奇妙なことがおこっているのである。シュバルツシルト半径の大きさは
2×重力定数×天体の質量/光速2
である。具体的な数値を代入すると
3×( 質量/太陽質量) km
である。つまり例えば太陽の10倍のおもさのブラックホールであれば、シュバルツシルト半径の大きさ、つまりブラックホールの大きさは30キロメートルになる。地球の半径が6700キロメートルであることを考えると、ブラックホールがいかに小さいかが分かるであろう。
1930年代になってアメリカのオッペンハイマーたちは、核燃料の燃え尽きた星で、ある一定質量以上の星は、自己の重力で潰れてブラックホールになってしまうことを示した。その臨界質量はガスが原子核程度の密度になったときの状態方程式の詳細によってきまり、太陽質量の2倍程度である。それ以下の質量では中性子星になることもオッペンハイマーたちにより示された。
しかしブラックホールの存在が真剣に考えられるようになったのは1960年代になってクエーサーやパルサーが発見されてからである。これらの天体はニュートンの重力理論では記述することができず、一般相対論が必要になるので、一般相対論的天体物理学が発展した。パルサーはさきにのべた中性子星であり、クェーサーは銀河の中心核にある巨大なブラックホールにより生じる現象であると考えられている( クェーサーの項を参照のこと) 。ブラックホールという名前もこのころにアメリカの相対論学者ホイーラーによりなずけられたものである。
ここでブラックホールの性質を要約しておこう。いま球対称で回転していないブラックホールを考えると、それのつくる重力場はシュバルツシルトの解で完全に記述される。シュバルツシルト半径を半径とする球面は事象の地平面とよび、そこより内側に入り込んだ粒子や光は再びそとに出てくることはできない。地平面とよぶのは、その向う側からは光すらも脱出できないので見ることができないからだ。その意味でブラックホールは真っ黒なのである。
それでは宇宙に存在するブラックホールは観測することができないのだろうか。そうではない。ブラックホールから光がでてこないといっても、重力の存在は感じることができる。ブラックホールのまわりにガスが存在すると、それは太陽の回りを地球が公転しているように、ブラックホールのまわりをまわる。そしてガスの円盤を作るのである。こんな円盤をアクリーション円盤とか降着円盤とよぶ。
アクリーション円盤のなかにあるガスは、いろいろな機構で回転のエネルギーを失い、ブラックホールのほうに落下していく。そのとき重力エネルギーが熱エネルギーに変わって、光とかX線のような電磁波になる。その電磁波を観測することにより、われわれはブラックホールの存在を間接的にではあるが認識することができる。つまりブラックホール本体ではなく、その周囲の空間が光るのを観測できるのである。
アクリーション円盤の存在する可能な場所としては、クェーサーのなか(クェーサーの項参照)とか、X線星があげられる。ここではX線星について少し説明しよう。X線星は近接連星系の星の一方が中性子星とかブラックホールのようなコンパクト天体であり、他方の星が巨星である場合におこる。巨星からひきだされたガスはコンパクト天体のまわりにアクリーション円盤を形成するのである。
ブラックホールの候補としては白鳥座にあるX線星、つまりシグナスX−1が有名である。そのほかにもGX339−4、A0620−00、マゼラン雲にあるX線星、LMC−X1,X2などがブラックホールを含む連星系の候補と考えられている。