タイムシステムの宣教師

 

システム手帳が流行っている。流行だしたのは昨年の始めころからである。知らない人の ためにいっておけば、システム手帳とはバインダー式の手帳のことである。従来の手帳は 本のように綴じたものであり、ページの入れ換えがきかない。したがって住所録を毎年、 書き写さなければならないという不便がある。この点を改良して、住所録だけは別冊にな っているものもあるが、それでも追加したり訂正したりすると見苦しくなってくる。その 点、バインダー式のものであると、予定表のようなものは、毎年、新陳代謝するが住所録 はそのままである。住所録の変更、追加も容易であり、もしパソコン、ワープロなどと連 動させれば、いつも最新の奇麗な住所録を持つこともできる。

 システム手帳は実は新しい発明でもなんでもなく、英国では戦前から将校や牧師といっ た人々( つまりオフィスにいるよりは出歩くことの多い人) に使われていたそうだ。それ が近年、アメリカでヤッピーが使いだし、一種のステイタス・シンボルになった。アメリ カの流行を追うのに敏感な日本人がこれを捨てておくはずがない。ハイテク(?) の流行 に敏感な私もこれをすてておくはずがない。昨年の始めに1万2千円もだして、革製のシ ステム手帳を買った。ただでもらうことに慣れている手帳に、こんな金額を払うには、い ささかの抵抗もあろうが、なに、女性のハンドバッグと同じことなのである。

 それ以後、私はシステム手帳探究の旅に乗り出したのである。システム手帳の専門雑誌 ( リフィル通信、アスキー出版) さえ発刊されていることを知ったのもこのときである。 私から病気を移された同僚とともに、いちどに13冊ものシステム手帳関連の本を買い込 んだりした。東に東急ハンズがシステム手帳のコーナーをもうけていると聞けば渋谷に赴 き、西に高槻の西武百貨店にもあるよといわれればいそいそと革表紙を撫でに赴くのであ った。百貨店などにおける文具のコーナーのさらに一隅から出発したシステム手帳は、さ ながらエイズのごとく、あっというまに蔓延して、文具コーナーの多くの面積をしめた。 それどころか、昨今はスーパー「いずみや」の生活用品のところでも売られているのであ る。もはやステイタス・シンボルでもなんでもない。トイレットペーパーと同列の商品に なったのである。

 ここでいうシステム手帳とは、いわゆるバイブルサイズ、B6サイズといわれるもので ある。それにたいしてA5サイズとよばれるものがある。その代表がデンマークの「タイ ムシステム」である。これは一部の熱烈な愛好者があるときき、私も差別化を図るために 5月にはこちらに鞍替えしたのである。バイブルサイズは、その書き方に自由度があり、 沢山の種類のリフィル( 紙のこと) が売られている他に、個人が自由に書き方を工夫でき るのである。要するに趣味的なのである。なかにはシステム手帳の中に、洋酒の小壜をつ めこむという求道者まで現れる始末である。

 いっぽうタイムシステムは、そのネーミングからも分かるように、時間管理にひとつの 焦点を絞ったシステム手帳で、年間、月間、週間、一日の計画と、その書き方がびっしり と指定されている。これは手帳といってもあまり重いので、もはやもちはこびには便利で はなく、デスクダイアリーといった類のものである。タイムシステムの宣教師を任じるお っちょこちょいの私は、これをドイツまで運んでいき、えらくくたびれた思いがある。し かしこれは役に立つ。私はあきもせず、せっせと愛しいタイムシステムに予定とか、日記 的メモなどを書いている毎日である。

 流行を追うのに敏感な日本企業がタイムシステムのまねを、出さないはずがない。A5 サイズもあっというまに、文具コーナーを満たしたことはいうまでもない。つぎはA4か ?


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