仮想現実という言葉がある。コンピュータにおいて、現実とそっくりの世界を作り出す技 術である。ゴーグルのお化けのようなアイフォンというものをかぶる。このなかには小さ なディスプレーがふたつ組み込まれていて立体視ができる。アイフォンには頭の位置とか 角度を検出するセンサーが組み込まれているとする。アイフォンにたとえば箱が映ってい るとする。頭を動かすと、アイフォンに映っている箱が移動するようにプログラムしてお く。するとあたかも箱が現実に存在するように思える。
また手にはデータ・グローブをはめる。データ・グローブは手の位置とか指の曲がり角 度を検出するようにする。すると手を動かして箱を移動したり、回転させたりするように することも可能である。指に抵抗感をあたえれば、まさに箱を触っている感触も感じられ る。さらにはデータ・スーツというものもあり、これを着ることで体の格好の情報などを コンピュータに与えることもできる。
最近発表された製品に、頭にヘッドバンドをつけて、そのさきに一つのディスプレーが ついたものもある。アイフォンをかぶると、周りが見えなくなるので、それをふせぐため であろう。ヘッドファンをつけてウオークマンの世界にひたっていると、周りの声や音が 聞こえなくなる。そこでオープン・タイプのヘッドフォンで外界の音も聞こえるようにし ておけば、その問題は一応は回避できる。それと同様にアイフォンにおいてもディスプレ イを目の正面ではなく、側面につけて、その像を半透明の鏡で目に送り込めば外界の像と デイスプレイの像が重なり合って見えるはずである。戦闘機のコクピットに使用されるヘ ッドアップ・ディスプレイはそんなもので、コクピットの正面にさまざまな情報が映し出 されるので、パイロットは計器を見るために下を見る必要がない。
かのアーノルド・シュワルツェネッガーが主役ではなく悪役として登場する「ターミネ ーター」というSF映画があった。そこではシュワルツェネッガーは未来の世界から現代 に派遣された殺し家のサイボーグの役を演じている。彼の視野には外界と同時に、種々の 情報が映り、コンピュータ端末としての役割も果たしていた。
こんな技術は単なるコンピュータと人間とのインタフェース技術にとどまらず、われわ れの生活を大きく変えるのではないかと予感されるのである。そこで私の未来のコンピュ ータに関するホラ話をしよう。アイフォンはさらに小さくなり、眼鏡のようになる。もっ と小さくしてコンタクト・レンズのようにすることも考えられる。そこには非常に現実的 な立体像が映る。もちろん外界も透けて見えるようにできるが、仮想世界に浸るときは外 界を見えなくすることは簡単なことだ。耳にはイヤフォン、口もとにはマイクロファンを つけて、コンピュータと視覚的、聴覚的コミニュケーションをはかる。鼻のちかくにさま ざまな匂いをだす装置をつけることも考えられる。手にはデータグローブをつけるか、あ るいは体全体をデータスーツでつつむ。このデータスーツは単に受動的に人間の体の格好 を検出するだけでなく、抵抗感とか感触を能動的にあたえて仮想世界の現実性を一層増す のである。現在のコンピュータと人間のインタフェースは、キーボードとディスプレイの みであるが、それをあらゆる感覚に広げるのである。
コンピュータの入力促進記号つまりプロンプトのかわりに、人間の像がでてきて挨拶す る。コンピュータの使用者が男であれば、とうぜんプロンプトはかわいい女性ということ になろう。プロンプトをどのように選ぶことも可能であるから、アイコン・エディターの ようなものを使って好みのプロンプトを作り出せるのである。そしてコンピュータにああ しろこうしろとコマンドを発するには、そのプロンプトに対して口で命令すればよいので ある。完全に従順な、とても有能な理想的な秘書のようなものである。現在、システム手 帳や電子手帳さらにはノート・パソコンなどにスケジュールを書き込むビジネスマンは多 いであろう。未来には一人一人のビジネスマンに電子秘書がつくのである。しかもそれは 現実の人間に限りなく似るよう、さらには人間を超越した能力を持つように設計されてい る。
ここまでいうと、現在のコンピュータでもアダルト・ゲームがあるように、さらに現実 的な未来のコンピュータを悪用するソフトハウスがでてくるのは、ほとんど明らかであろ う。そのため現実の男女ではなく、コンピュータに恋する人々が多く現れて、人口が減る という可能性もある。現在でもコンピュータ・ディスプレイ上の2次元的美少女にのめり 込む2次元症候群のオタッキーがいるのだから、3次元的美少女ならなおさらのことだ 。
さてもっと建設的な使い方について語ろう。未来のコンピュータはネットワークで結ば れている。ある人が別の人に会おうと思ったら、現実に会う必要はない。相手の持つコン ピュータに信号を送って通信が成立すると、お互いの姿が眼前に見える。テレビ電話の進 んだものと思えばよい。テレビ会議よりもっと臨場感に富んだ遠隔会議をすることができ る。すると在宅勤務がもっと本格的になるであろう。在宅勤務が日本ではやらないのは、 やはりフェイス・トゥ・フェイスの情報が重視されるからである。しかし未来のネットワ ークで、本当にその人に会っているような感覚を与えられるのなら問題は無くなる。する と人々は家で寝転んだまま、会社に出勤したような仮想現実の中で仕事をするのである。 学校も同じことだ。出勤、登校といったことが不要になるので、非常に省エネになるであ ろう。
恋人とデートするのも、もはや直接会う必要はないのである。データ・グローブをつけ ておれば握手をすることもできるし、データ・スーツをつけていれば抱擁することもでき るのである。すべて疑似感覚ですますことができる。「より現実的な感覚をあじわえる当 社のデータ・スーツ」てなコマーシャルがはやるであろう。
パソコン通信においては、チャットといって遠隔地にいる人々がコンピュータ・ネット ワークを通じて会話をすることができる。そのとき人々は自分の本名ではなくハンドル・ ネームというものをつける。だからその人の顔とか社会的地位といったものは、会ったり 知らせなければ分からない。未来のコンピュータ・ネットワークでは顔が見えるのである が、それもハンドル・フェースとして、偽の顔形を登録することも可能であろう。すると 仮想の社会が成立するのである。たぶんみんなは美男、美女に扮して社交するのであろう か。ハンドル・フェースはいくらでも登録できるので、いろんな人間になることも可能で あり、さまざまな仮想現実の仮想生活を送ることができる。
さらにいえば、仮想現実の社会は現実の人間を相手にする必要もない。ドラクエのよう にコンピュータの与える仮想の世界に入り込んで活躍することもできる。ゲームがうまく いかなければなんどでもやり直しができるように、この仮想世界の生活はいくらでもやり 直しが可能である。こんな世界に浸ると、だれも真の現実世界には出てこないのではない だろうか。未来の人々はみんな寝たままで日常生活を送るのである。まさに明るい寝たき り生活である。