筆記具を求めて

万年筆、ボールペン、水性ボールペン

カバン研究は一段落がついて、現在は筆記具の研究に集中している。最近は若者の間にも万年筆が流行っているという。万年筆で書くのはかっこうよいのだそうだ。デジタルの時代にこそアナログが求められるのである。文章を書くにはワープロはダメで、ペンで書かないと良い文章が書けないと言う、書家の石川某の意見には僕は組みしない。ワープロの方が何度も推敲ができて良いに決まっている。しかし手書きにはそれ自体の味があることは否定しない。手紙などはワープロで書くよりは手書きの方が暖かみがあることも事実である。そこで僕が百貨店の筆記具コーナーを回ったり、雑誌の記事などで得た知識を披露する。

万年筆の書き味

 これは一番微妙なテーマである。なぜなら、書き味はかなり好みに依存するからである。基本的には滑らかなものがよい。カリカリ、カサカサするものは書き味が悪いとされている。しかし川端康成はカリカリした書き味を好んだという。私はなんといっても滑らかな書き味を好む。滑らかであるためには、まず1)ペン先が太いこと、2)インクの流量が多いこと、それに3)ペン先についているイリジウムの合金(イリドスミン)のペンポイントが、きれいに研がれていて滑らかなことである。1)、2)の条件は、要するに太い字の方がなめらかに書けると言うことで、細い字を書きたい場合には参考にならない。ペンポイントの滑らかさは、これは磨き方、研ぎ方に依存するので、手間がかかっている、つまり高いものの方がよいことになる。たとえばパーカーの高級品はクルミのチップで研がれるという。セーラーの長刀研ぎの万年筆は、たった一人の達人のものである。これは通常は丸く研がれるペンポイントを長刀のように長く研ぎ、漢字の撥ねなどを表現するのに適していると言われる。

 ペンの柔らかさは、金の含有量と関係あるように思うがそうではないようである。そもそもペン先に金を使うのは、インクが酸性で鉄のペン先を錆びさせるからである。そこで酸に強い金やステンレススチールがペン先に使われる。金は24金が純金である。金ペンとしては14金、18金が普通である。日本製には21金、22金もある。これは多分メーカーが無意味な競争に走ったためであろう。金ペンは14金で十分であると言われている。

 ペン先の柔らかさは、材質よりはむしろペン先の形状、厚みによる。長い、細い、薄いペン先は柔らかく、逆は堅い。日本製は概して腰が柔らかいと言われている。外国製でもパーカーは柔らかいが、シェーファー、ウオーターマンは腰が堅いと言われている。

 書き味は基本的にはペンポイントによるとすると、専門家による矯正が可能である。また長年書いていると、その人の癖が移り、書きやすくなる。靴の減り方のようなものか。だから万年筆は人に貸すと良くないと言われている。

  外国製対国産品

 雑誌「ラピュタ」で有名人の愛用品というような特集があった。そのなかで万年筆をあげた人は作家を中心に多かった。あげられた万年筆としては、モンブラン、パーカー、オノトモデル、パイロットなどであった。ある作家が言うには、外国製の万年筆は腰が強く、日本人には簡単に使いこなせない。阪大レーザ研の高部さんも日本の字には国産の万年筆だと言っていた。しかしデパートの店員の意見はそうでもない。好みだという。まあ外国製の万年筆を売っているのだから、当然の意見ではあろうが。

 カタログによれば外国製は18金止まり、しかもそれは高級品で2万円以上のものだ。パーカーがもっとも安く、1.5万円で18金がある。国産は1万円から14金があり、1.5万円だすとなんと21-22金になる。金が多ければよいのかどうかはともかく、これは事実で、このあたりが先の言明の原因であろう。

 ところで書き味だが、外国製が悪く、国産がよいということは発見できなかった。それどころか、僕が普段持ち歩いているアウロラが一番良いという結論を得た。これは1万円で、かつスチールペンなのである。店員に言わせると、それは使い込んだからだという。ある作家もそのようなことを書いていた。ペンは使って手になじませなければならない。もっとも別の作家は、一作書くと書き味が落ちる気がするので、そのたびに新品を買うという。しかし別の作家は20年来同じペンを愛用しているという。統一見解はないようだ。

 ところで外国のアルファベットと日本の漢字の明らかな差は、字の密度である。手紙などでは比較的大きな字を用いても良いが、ノートや手帳に書く字のような実用的な字は比較的小さい。小さな漢字を書くには、細字、ないしは極細が適している。外国製の万年筆は中字や太字はよいけれど、細字や極細ではあまり適していないという説がある。つまり日本の万年筆は日本語を書くのに適しているというわけだ。

 外国製と国産の明らかな差はデザインである。これは外国製が断然良い。国産は黒が主体であか抜けしないものが多い。パイロットにはカラフルなものもあるが、総じて安物である。外国製といっても国によって異なる。ドイツのモンブラン、ペリカンは保守的で、シンプルなデザインを墨守している。ウオーターマンはフランスらしくしゃれている。アウロラもイタリアらしくカラフルだ。カランダッシュはスイス製だがフランス文化圏であるジュネーブの産だ。ボールペンはシンプルだが最新作の万年筆はよい。英国のパーカーは高級品のデュオフォールドがユニークなデザインだ。米のクロスは形状が全て同じ。英米系はドイツ系とラテン系の中間だ。フランスのSTデュポンもすばらしい。というわけで、僕はラテン系が好きだ。

重さ

 万年筆の重さにこだわる人がどれだけいるだろうか。僕がドイツのロットリングの多機能ペンを買ったとき、その重さに驚いた。しかし使っていく内にその重さが心地よいものに変化していった。カランダッシュのパンフレットを読むと、筆圧をかけなくても自重で書けるように設計されているとあった。なるほどそういうことなのか。筆圧をかけて長時間書くととても疲れる。ボールペンで筆圧をかけずに書けるようになっていると疲れない。

 そういう観点で見ると、国産はおしなべて軽く、外国製には重いものがある。その理由は国産のペン軸は樹脂で、外国製の中には金属の削りだしにラッカーを塗っているものが多いからだそうだ。ロットリングのペンは49gもある。国産は25g程度である。ウオーターマンもクロスも重い。モンブランやパーカー・デュオフォールドは軽い。パーカーの水性ボールペンは重い。国産でもパイロットの最高級品は重いという。

 しかし重ければよいかというとそうではない。バランスが問題だ。ペン軸が長いと重心が上に上がりバランスが悪くなる。短くて重いものがよい。その点ウオーターマンのカレンはよさそうだ。しかしこれはペン先が短く、堅い。

ペン先の太さ

 ペン先はその太さでEF(極細)、F(細)、M(中字)、B(太字)に分類される。国産にはさらに細かい分類がある。中字は実はかなり太い。僕のオノトタイプがそれである。中字は太すぎて、太い罫線で書く手紙以外は実用的ではない。漢字には細字が適当である。

 プラチナの14金の極細を買ったが、カリカリ感が強く、ペン先の抵抗が強く、線を思った方向に引くのが困難だ。つまり字を上手に書くのが難しい。しかし線はきれいである。これは1万円の品を4割引してもらったものだ。ペン習字用の500円のペンを買ったら、これがとても書きにくくて、字がいっぺんに下手になったので使うのをやめた。

インクの色

 インクの色には基本的にブラック、ブルーブラック、ブルーがある。さらにレッドや他の色を用意している会社もある。万年筆は従来、ブルーブラックが主体であった。インクは水溶性だが、紙に書いた後は水に溶けては困る。従来のブルーブラックは、紙と化学反応して定着したそうだ。しかし青はコピーができなかったので黒が主体となった。今ではブルーブラックも水溶性だ。水をかけて実験してみた。

 ちなみにボールペンは油性で、水をかけてもにじまない。水性ボールペンは当然、溶ける。だから封筒の表はボールペンで書いた方が良いであろう。ジェルインクは溶けない。僕はブルーブラックの色はあまり好きではない。黒はキリリとしているし、青はきれいだ。ブルーブラックは中途半端である。

 シェーファーのカリグラフィーセットを買ったら、12種類のカラーインク・カートリッジがついてきた。こことオマスはインクのカラーのバリエーションが多い。もっとも手紙を書くには、黒、青、ブルーブラックが無難であろう。ウオーターマンのサウスシーブルーのインクを買った。とてもきれいな水色である。しかし色が薄すぎて趣味的なものである。

さまざまな筆記具

 今までに主として万年筆のことを述べた。ここでは他の筆記具についても述べよう。

ボールペン

 これはもっとも普及している筆記具である。まずなんと言っても安い。安物の中には途中で書けなくなってイライラするものもある。しかし安物が悪いかというとそうでもない。どんな高級なボールペンを買っても、そのペン先、つまりリフィルは安いのだ。最も高いモンブランのもので950円、その他はだいたい600円である。ボールペンの値段はペン軸の値段なのだ。それに対して万年筆はペン先と一体であるので、これはペン先の値段といっても良い。そういうわけで、ボールペンはあまり高価なものを買っても仕方がない。持つ喜びを求めるなら話は別だが。

 ボールペンの書き味をペン先の滑らかさという観点から評価すると、モンブランが一番だ。それにカランダッシュである。しかし滑りがよいということは、ふにゃふにゃした字になりやすいと言うことだ。引っかからなければ、どれでも良いであろう。

 ボールペン、水性ボールペン、鉛筆には方向性がない。どちら向きに持っても書ける。それに対して万年筆は方向性がある。だから万年筆だけが独特の書き味を持っている。

水性ボールペン

 カタログではローラーボールペンと記されている。特徴はインクの色が濃いことだ。その意味で黒々とした美しい字が書ける。書き味も悪くない。欠点は水に溶けることである。ジェルインクは水性ボールペンの水に溶けるという欠点を是正したものである。しかし書き味はゴリゴリして、僕は好きではない。それならいっそボールペンの方がよい。

複合筆記具

 最近、一本の筆記具で様々に使えるものが多く売り出されている。僕はロットリングの3色ペン(3000円)と4色ペン(8000円)を買った。前者は黒と赤のボールペンにシャープペンシルだ。後者はさらにマーカーペンもある。僕は入力ペン先を買って装着した。ロットリングの特徴はペン先の選択法にある。ある面を上に向けてノックすると選択したペン先が出てくる。その他にもいろいろの機構がある。

 しかしこれらは安物が多い。高級品は相変わらず、ボールペン、ローラーボールペン、シャープペンシルと別になっている。そのなかでクロスのセレクチップローリングはおもしろい。これはペン先の交換で、ボールペン、水性ボールペン、ドキュメントマーカー、ポーラス芯が選べる。それぞれを単独で買うよりは安い。クロスの最高級品は4.5万円もするから、高級品志向を満足させることもできる。ちなみにもっとも安いものは6千円である。僕はCentury II-Alhambraという1.2万円のモデルが気に入った。

筆ペン

 毛筆の小筆に似せたものだ。僕はくれ竹筆ペン二本立てを買った。これは毛筆と硬筆の二本がついている。硬筆は水性ボールペンに似ている。安価であるにもかかわらず書き味も良いし、発色も黒々していてきれいだ。全てこれ一本ですます人がいてもおかしくはない。

ペンケース

 筆記具をたくさん収集すると、持ち運びが不便である。僕は始め、モンブランの1.5万円の3本入りペンケースを使っていた。しかしそれでは不足になり、もっと多く入れられるものを探した。ペリカンの製品で12本入り2万円というものがあったるこれはなかなか良いのだが、ペリカン専用で、太いペン用と細いペン用が6本づつである。僕のは細い部分には入らないので買わなかった。銀座の伊東屋で10本入りの黒のペンケース(2万円)を買って使用している。

現在の僕の収集品

 万年筆は始めは、貰い物の丸善のオノトモデルから出発した。14金の中字のものである。定価は3.3万円らしい。中字であるので細字とは比較できないが、書き味は最高である。次に京都アバンティのFISMYで真っ赤なウオーターマン1.5万円、アウロラ1万円をそれぞれ4割引で買った。これらの書き味も良い。いずれもスチールペンだ。現在までに買った最も高い万年筆は4万円のパーカーの型落ち品を三宮のナガサワ文具店で5割引、2万円で買った。パーカーソネットプルミエで、なんと漆塗りである。ペン先は18金でプラチナ装飾までしてある。もっとも書き味は、少しカサカサしていて、僕の好みには合わない。京都の高島屋でシェーファーの1万円のスチールペンの赤い型落ちモデルを4割引で買った。これは思った以上に書き味がよいので驚いている。極細のプラチナを定価1万円の所、4割引で買った。以上の経験からして、万年筆の書き味は値段に比例するという説、あるいは信仰は僕には確認できなかった。

 ボールペンはモンブランの2.5万円のものを二本買った。ひとつはずっと以前の買い物で定価であるが、二本目はアバンティでなんと5割引であった(ゴールデンウイークの二日間だけ)。大阪駅大丸の筆記具売り場店員によれば、モンブランは割引販売をすると出荷停止になるという。アウロラの万年筆と同じデザインのボールペンを阪急百貨店で見つけて、これは5千円で定価で衝動買いした。使い勝手よりも、アウロラはデザイン、色である。パーカーのソネットの水性ボールペンをアバンティで5割引で買った。カランダッシュのボールペンは書き味がよいといわれているので、2.5千円の最低価格品を買った。以上からも分かるように、僕は高い筆記具を定価で買うことは滅多にない。3-5割引で買っている。高いものを安く買うのも買い物の醍醐味である。

今後の研究方向

 カバン研究の場合もそうだったが、始めは安価なものから出発しても、しだいに高級品に目がいくようになる。ある作家は外国製なら5万円以上が万年筆らしい万年筆だと述べている。しかしそれはどうだろうか。特殊な芸術品を除けば、クロスでは5.5万円、パーカーで5万円が最高級品である。5万円以上のものは性能というよりは、芸術性の値段ではないだろうか。そうだとすれば機能的には5万円以下の万年筆で十分だと思う。

 僕が今注目しているのは、S.T.デュポンのオランピオ・プレジデントで赤い漆塗りに金箔が施してある。なんと8万円以上もするがとても美しい。カランダッシュのレマンコレクションもなかなか美しい。4-5万円である。パーカーデュオフォールドは定番なので欲しい。4-5万円である。モンブランやペリカンは定評があるが、デザインが地味なので、あまり欲しくない。