大和巻頭言「戦争帝国アメリカの行方」

米英軍が2003年3月20日にイラクに侵略を開始して、4月9日にバクダッドが陥落した。だから10月10日はイラク戦争においてバクダッドが「陥落」して半年ということになる。事態の推移は、読者もよくご存じのことと思うが、簡単にまとめると次のようになるであろう。米英はイラクのフセイン政権が、核兵器や生物化学兵器などの大量破壊兵器を持っているとか、アルカイダとつながりがあるということを表向きの理由にして、イラクに攻撃を仕掛けた。戦闘は戦前の予想に反して、短期間のうちに米英軍の圧勝に終わった。実はこのようなことは湾岸戦争でも、アフガン戦争でもそうなったので、多くの軍事評論家の予想が当てにならないことを示した。ところが、イラクに簡単に民主主義をもたらせるという思惑に反して、米英は戦後統治の困難に出会している。そのため、ブッシュ政権もブレア政権も政治的困難に出会している。これに関しては、こんどは多数の評論家の予想通りであった。


米国がイラクに戦争を仕掛けた理由に関して、さまざま取りざたされてきた。前述の表向きの理由を真に受けたのは、米国国民と、よほどものの分かっていない人だけであろう。ブッシュ政権にとってそんな理由は単なるけんかの口実でしかなかったことは明らかだ。もし大量破壊兵器が問題なら、それを保持していると公然と言明した北朝鮮や、あるいはすでに持っているインド、パキスタンはどうなるのか。あるいはイスラエルはどうなのか。米国のいうことを真に受けるのはバカとお人好しだけである。


真の理由は他にあるはずである。その理由として戦前には石油利権があげられたが、それも多少はあろうが、大きな理由とは言えない。真の理由は、ウォルフォウィッツ国防副長官、パール元国防次官補(「闇のプリンス」とよばれる)などユダヤ系のネオコンと呼ばれる一群の人たちが、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官などの共和党保守派(アングロサクソン)と手を組んで、自分たちの理想、つまり世界をアメリカ流の民主主義で染め上げることを達成しようとしたのだ。彼らの一人はこれを柔らかい帝国主義と呼び、そのどこが悪いかと開き直っている。ネオコンは、本来は左派のトロツキストであったのだが、世界革命の方向を転換しただけにすぎないといわれている。国防省などに巣くう保守派をタカ派とよぶなら、国務省をひきいるパウエル国務長官はハト派と目されている。タカ派は米国一極主義を唱え、ハト派は国際協調を重視している。


以上が日本やヨーロッパの、普通の知識人の常識であろう。しかしことはそんなに単純だろうか。私は、ブッシュ政権は、アメリカの体質を極端に表しただけであり、アメリカは基本的には戦争を必要としている国であると考えている。その考えでは、パウエルは平和愛好者などではなく(米軍の最高位に上り詰めた経歴を忘れてはならない)、ただイラク戦争のような、世界を敵に回すようなやり方ではなく、もっと穏やかに世界の同意を取り付けながら、常に弱い戦争を続けることを欲していると見る。ネオコンたちは、パウエルから見れば愚かにも、戦争の強度をアップしただけにすぎない。


アメリカが戦争を必要としている理由はアイゼンハワー大統領が警告した軍産複合体の存在にある。ブッシュ政権の要人たちは、チェイニーを筆頭としてほとんどが軍産複合体と密接な関係にある。ソ連との冷たい戦争が続いている間は、米国は大量の軍事費を公然と使うことができ、軍需産業はそれで潤ってきた。しかしソ連の崩壊後に、彼らは危機に陥ったのである。彼らが儲けるためには、常に敵を必要としているのである。実際、湾岸戦争でも、アフガン戦争でも、イラク戦争でも、大量のミサイルや爆弾は消費されつくし、在庫を補充するために膨大な軍事費が費やされ、軍需産業は好景気に沸いているのである。米国は軍産複合体に支配されており、必然的に、弱かろうが強かろうが、常に戦争を必要とする国家になっていると私は見る。その点、土建・政官複合体に支配されている日本は、人を殺さないだけ平和的だと言えるし、「建設的」とさえいえよう。


しかし米国のこのような政策は、米国の利益にたったとしても問題はないのであろうか。私はこの間、米国の政策に関心を持って色々の文献を読みあさった。もっとも興味深かったのは、米国エール大学の世界的に著名な社会学者、イマニュエル・ウオーラースティンの論文である(日経新聞2月12日、3月24日)。彼はきわめて新鮮な視点を提供している。彼はまずイラク戦争により、米国が大きな困難に逢着することを予言する。その理由は(1)独仏露を組ませるという地政学的に初歩的なミスを犯してしまった。米国の外交政策は伝統的にこれら三国が手を組むことを阻止することにあったし、それは今まで成功してきたのだ。それをブッシュ政権は台無しにしてしまった。(2)もし独仏露が手を組むなら、その対抗措置として米国は中国、韓国、日本と地政学的同盟を結ぶべきであるが、タカ派は逆のことをしている。(3)石油をコントロールするには、イラクよりもサウジが重要であるが、米国のタカ派はサウジを敵に回そうとしている。当然のことながら、全イスラム圏も敵に回した。(4)米国は従来、核拡散防止に努力し、かなりな成功を収めてきた。しかしイラク戦を見た北朝鮮やイランは、ますます核兵器の重要性を信じるようになった。


 その結果、米国はどうなるであろうか。当面は大した影響はないかもしれない。しかし長期的に見ると大きな影響がある。まず膨大な軍事費を支出することにより、経済戦争を征するための技術競争で、米国は今後三十年は弱い立場に立つ。その点、西欧や日本は、はるかに有利な立場にある。技術開発に関しては、日本がもっとも有利であり、経済面に限れば日本は今後十年で米国を押さえて主導権を握るであろう。もっともそのためには、日本は中国、韓国と政治・経済的にうまく折り合いをつけられるかどうかにかかっている。


 どう、日本人にとってなかなか元気の出るご託宣ではないだろうか。