肩の力を抜くことの大切さ   2001年大和巻頭言

習い事において、肩の力を抜くことの重要性

 肩の力を抜くことがいかに重要かについて述べる。よく「肩の力を抜いて」などと言われることがある。「緊張せずに」とか「リラックスして」やれということである。この言葉に、非常に深い意味があることを最近、発見した。肩の力を抜くという事は、いろいろの習い事において重要である。例えば、私は昨今、ペン習字の練習をしているが、姪から「おじさんの字は最近、肩の力が抜けてきたね、ピアノを弾く場合でもそれは重要なことなのよ」と、字を誉められたのかどうか分からない手紙をもらった。

 合気道でも、その他どんなスポーツでも肩の力を抜くと言うことは重要である。ここで言う「肩」の力というのは、象徴的な例えであって、要は不必要な力、筋肉を使わないと言うことである。合気道の初心者を見ると分かることだが、必要でない部分の筋肉に力が入り、不必要に疲れたりする。上達すると、本当に必要な部分のみの力を使えばよいことが分かってくる。

ストレスは病気の原因

 さて、ここまでの話は、それほど珍しいことでもなく、私の発見と言うほどのことでもない。私は最近「リラックスの科学」F.J.マクギーガン著、森・三谷訳、講談社ブルーバックスB715という、かなり古い本をたまたま読んだ。そこでは、ストレスというものが、人間の健康にとっていかに悪いかが、多くの例を挙げて述べられている。例えば、心臓発作に導くとか、不眠症になるとか。私が特に関心を持ったのは、ストレスが消化器に作用すると、最悪の場合は潰瘍性大腸炎になると書かれていたことだ。この病気こそ、私がここ十年以上にわたって悩まされているものである。この病気は厚生省に難病指定されたもので、その真の原因は分かっていない。しかしストレスが病気を悪化させることは、学説的にも経験的にも明らかである。

ストレスは筋肉の緊張をもたらす

 さて、ここまでの話も読者にとって特に目新しい話ではないであろう。私にとって意外であったのは、ストレスが筋肉の緊張をもたらすということであった。人間には千を越す筋肉があり、随意筋というものは人間が唯一、意志でコントロールできるものである。ところが人間は筋肉の使い方に慣れていず、あるいは間違った使い方を長年にわたり学習してしまい、何かストレスがあった場合、多くの筋肉を不必要に緊張させてしまう。つまり「肩」に力が入ってしまう。

 例えば歯医者のイスに座って、歯を削られるときは、それこそ肩に力が入るであろう。そんなことをしても痛みを和らげるどころか、かえって緊張で痛みがますのにである。終わった後は、へとへとになり、コリコリになるのである。

 筋肉が緊張すると、筋肉は脳に反応を返し、すると脳からまた指令が出て、筋肉を緊張させるといった複雑な反応が生じる。それはさらにホルモンの分泌や神経系を通じて体の各所に様々な影響を及ぼす。要は、ストレスに出会うと、不必要な筋肉が緊張して、疲れてしまい、それが体にいろいろの悪さをするというのである。ストレスのために背中の筋肉が痛くなる症例、不眠になる症例を著者はあげている。これは私の友人が過度のストレスから生じたと私に述べたまさにそのものの症例である。

 疲れたときに、使った覚えのない筋肉、例えば肩、背中、足の裏、手のひらなどが凝ったりするのは、間違った筋肉の使い方をするからである。特に微妙なところは、口の周りの筋肉と目の周りの筋肉であると著者は述べる。確かにコンピュータを使いすぎると目が疲れるが、あれは目自体が疲れるよりも、周りの筋肉が疲れるのである。

マッサージは凝りの解消を通じてストレス解消に役立つ

 この本の著者はアメリカ人であり、筋肉の緊張、痛みという言葉で表現しているが、我々日本人からみれば、これこそまさに肩凝りとか、体の諸所の凝りに他ならない。最近マッサージが大流行である。かくいう私も、整体指圧や、足マッサージ、背中のマッサージの大ファンである。足のマッサージに関しては、リフレクソロジー(反射学)というものがあり、体の各所と足裏の各部分が関係あると主張している。私は始めはこういった理屈はうさんくさいものと思っていた。しかし、先に述べたように、ストレスが筋肉の緊張を引き起こし、それが筋肉痛になるとすると、筋肉の緊張をほぐす種々の方法、それが指圧であれマッサージ、整体であれ、その理屈はともかく、ストレス解消に効くことが推測されるのである。先の友人も、足裏マッサージにかかると、つい寝てしまい、不眠に悩むものにとっては救いだと述べていた。私も足裏マッサージを受けると、その心地よさについ寝てしまい、目が覚めたときは終わっていたので、なんかお金を損したような気分になることがある。

脱力法

 ところで先の本の要点は、筋肉の力を抜く、つまりリラックスする方法をマスターさせる所にある。それは単なる休養ではだめだという。意図的に筋肉の脱力をはかるのである。その処方箋たるや、一日50分、体の様々な部分の脱力法を一生やれと言うもので、手法も微にいり細にいり、とても大変で私にはとうていできそうにもない。なぜならその50分は寝る前ではだめだそうで、それでいて、静かな部屋のソファーやベッドの上でやれというわけで、忙しい現代人には到底不可能なことだからだ。ストレスのない人だけができそうな処方箋だ。

 この本を読んで、著者の意図に反して、その手法は実践できそうにはないが、ストレスと凝りの関係、それと病気との関係、ストレス解消を通じて指圧、マッサージ類が病気に効くということの科学的因果関係を発見したと悦に入っている。ストレスがあっても病気にならないためには、まず肩の力を抜くことが必要なのだ。